ヒンディー語では「昨日」と「明日」が一緒?
日本人に話すと驚かれますが、 ヒンディー語では「昨日」と「明日」を一つの単語で表します。
ヒンディー語の「昨日」と「明日」
आज アージ | 今日 |
कल カル | 昨日・明日 |
परसों パルソーン | おととい・あさって |
नरसों ナルソーン | さきおととい・しあさって |
表を見ていただくとわかるように、「昨日」と「明日」、「おととい」と「あさって」、「さきおととい」と「しあさって」が同じ単語です。学習者からすると、覚える量が半分になるのはうれしいですね。नरसों(さきおととい/しあさって)の使用頻度は高くありません。तीन दिन पहले (3日前)、तीन दिन बाद(3日後)と表現することの方が多いです。
数直線上に並べてみると、絶対値のような考え方をしていることが分かります。कल はआज (今日)から見て、1日前と後を指す言葉です。
過去←時系列→未来 | ||||
परसों | कल | आज | कल | परसों |
おととい | 昨日 | 今日 | 明日 | あさって |
「昨日」と「明日」が同じ単語で混乱しないのか?
「昨日」と「明日」が同じ単語だと覚えるのは楽でも、実生活で混乱や誤解が生じたりするのではないか、という疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。私も初めはそう思いましたが、実際にヒンディー語で会話をしていて、このकल は昨日?明日?と迷ったことはありません。その理由は、文脈や動詞の活用があるためです。
動詞による判断
ヒンディー語の動詞は時制に合わせて活用します。その活用によって過去か未来かが決まり、おのずと「昨日」なのか「明日」なのかも理解できるというわけです。下記に例を挙げてみます。
① कल आम खाया カル アーム カーヤー 昨日、マンゴーを食べました
② कल आम खाऊँगा カル アーム カーウンガー 明日、マンゴーを食べます
一文目のकलは「昨日」で、二文目のकलは「明日」だと理解することは難しくないと思います。実際の会話ではこのように動詞を伴うことが多く、迷うことはありません。
文脈による判断
動詞が省略されている場合でも、実際の会話には文脈があるのでコミュニケーションに問題は生じません。
① कब जापान पहुँच गए ?カブ ジャーパーン パホンチ ガエー? いつ日本に着いたのですか?
→ कल カル
② कब जापान जाएँगे ? カブ ジャーパン ジャーエンゲー? いつ日本に行くのですか?
→ कल カル
この会話ではकल と一言しか返事が来ていませんが、①は「昨日」、②が「明日」だということは予測できたのではないでしょうか。
このように動詞や文脈から意味が決まるため、「昨日」と「明日」が同じ単語でも困ることはありません。ましてや、言語や概念の理解に何か欠陥があるというわけではありません。
インド英語への影響
上記のようなヒンディー語の特徴が、ヒンディー語母語話者の英語に影響を及ぼすことがあります。ヒンディー語母語話者は、yesterdayのつもりでtomorrowと言ってしまったり、tomorrowのつもりでyesterdayと言ってしまうことがあります。もちろん、話者がどれだけ英語に慣れているかにもよります。
この間違いにより、日本人とインド人の間でコミュニケーションエラーが起きた事例をご紹介します。インドに進出している日系企業で、日本人の上司がある大切な業務を「今すぐやるように」とインド人の部下に指示しました。すると、そのインド人の部下は「tomorrow! tommorow!」と答えました。それを聞いた日本人上司は、「なんでtommorowなんだ!今すぐやるようにと言っているのに!」と怒り、コミュニケーションがスムーズにいかなかったそうです。のちに事実関係を確認すると、その業務は前日の時点で既に完了していました。
この話では、インド人部下はकल =tomorrowだと覚えていたため、昨日と言いたいときもtommorowを使ってしまったのだと推察できます。日本人はそのような間違いが起こることは予期していなかっため、コミュニケーションに齟齬が生じてしまいました。ヒンディー語のकल についての知識があれば、「もしかしてyesterdayのことを言っているのかもしれない」と考えてうまくコミュニケーションを取ることができたかもしれません。外国語を話す際は母語の影響を大きく受けますので、ヒンディー語の知識があるとヒンディー語母語話者の英語を理解する助けになります。ヒンディー語を学ぶ副産物と言えると思います。